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ここはTW2シルバーレインの結社:フーテン塾による遊び場です。
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 夜。
 真冬の夜気は、肌を切り裂くほどの寒風となっている。
 まして高所ともなれば尚更だ。気温は実に五度近く。容赦なく吹きすさぶ風に曝されるとなれば、体感温度は更に下がる事だろう。
 その、良識ある人間なら決して寄り付かないような、真冬のビルの屋上に、

「ふはーっはっはっはー!」

 頭の悪い高笑いをあげる、変質者の姿があった。


「はーっはははははははぐふぉあッ!? ごほ! げっほごほガへッ!?」
 そして咽ていた。馬鹿丸出しであった。
 ――鴉の濡れ羽と称される、艶やかな黒の長髪。
 彫の深い、女性ですら見とれてしまう、あまりにも美しい顔の造詣。
 品のある紳士服に、風にあおられる黒い外套。
 それは美の女神の愛に溢れた、美麗に過ぎる男の姿。
「あ゛ー。あ゛、あ゛ー。ごほん。……ふはーははははは!」
 うんなんかもう色々と台無しだが、見た目だけはいいのである。見た目だけは。
 男の名はベル。ベイル・ジルビオレ・ターゲンリッド。
 『馬鹿と煙は』のことわざを地で体現する阿呆である。
「――何をしているんですか」
 ベルの背後から声がかかる。
 階下と屋上をつなぐ扉、その先に、一つの人影が現れていた。
 女性、否、少女だ。まだ十代の半ばほどだろう。
 繊細なガラス細工を思わせる、触れれば折れてしまいそうな華奢な体躯。
 零れ落ちる銀砂の如き長髪に、紅玉の輝きを持つその双眸。
 全身を包む黒いゴシックドレスは退廃的な流麗さを演出している。
 さながらよく出来たビスクドール。
 美しすぎて現実味がない。作り物めいたその美貌。
 陳腐な表現ではあるが、『美少女』という言葉がここまで似合う人物もいまい。
 だが――年齢に反してあまりに老衰しきった眼差しが、その容姿を裏切っている。
 リーリシア・ジルビオレ・ターゲンリッド。
 紛れもなく、彼女にとっては不本意極まりない事実ではあるが、この変態の妹である。
 少女の声に、キラリと歯が光りそうな笑みを浮かべてベルが振り返った。
「おおっと、これはこれはマイシスター! 待ってたよーぅ! いやなに、夜景を前にして夜空に高笑いを上げるのは悪役の醍醐味でしょう! フフン、一度やってみたかったんだコレ! あ、リアもやってみる?」
 近所迷惑にも程がある理由だった。羞恥心ないとしか思えない。
 それににこりともせず、リーリシア……リアは目を眇める。
「黙れうんこ」
「うん……ッ!? ちょ、初登場でそのセリフはまずくないかな!? ていうか女の子がそんな下品な事言っちゃいけません!」
「うんこにうんこと言って何が悪いんですかこのうんこ」
 開始三秒でヒロインからスピンアウトしそうな台詞を臆面もなく言ってのける。
 しかも冗談を言っているような朗らかさは微塵もない。
 バナナで釘が打てそうな温度の視線であった。
「あふん! そんな目で見られたら俺、俺! うっ」
「ちゃんと許可取ってますか?」
「は。いえ取ってないですごめんなさい」
 謝られた事になど興味がないのか、それとも元から兄に興味がないのか。
 恐らく後者だろうが、見た目にそぐわない冷淡な眼差しは変わらない。
 いいからさっさと本題に入れと、氷の表情が告げている。
「それで。準備はいいんですか」
「無論だとも。必要なものは愛と勇気。そしてちょっぴりの好奇心。それだけあれば準備なんて万全さ」
 頭の緩そうな発言ではあるが、この男は本気でそう思っている。
 今宵。あの屋敷を襲撃するに当っては、この身一つで十分だと。
 ベルは至極客観的な判断でもって確信していた。
 彼らが立つビルの真正面。都心に堂々と居を構える、広大な屋敷がある。
 この屋敷こそが今夜のエモノ。さる官僚の住居に他ならない。
「今夜の俺は怪盗紳士だ。……フフン、中々に悪くない」
「バカ?」
「お兄ちゃんもうちょっとオブラートに包んで言って欲しいなあ。傷つくから。本音言われると傷つくから」
「バカ」
「疑問符なくなった!?」
「つまんない掛け合いはいいんです。時間の無駄ですし。
 ……お兄様、自分で思ってるほど面白くないですよ」
「ぐほぁ!?」
 クリティカルヒット。
 隅っこでさめざめと泣く兄を完膚なきまでに無視しきって、リアは事務的に先を続ける。
 ――本日午後十一時過ぎ、とある官僚の屋敷がゴーストによる襲撃を受けた。
 ゴーストに対する備えなどあるはずもなく、間をおかず屋敷は沈黙。
 更に、敵はよほど強力なゴーストなのか、世界結界への影響を最小限にする特殊な結界をも張り巡らせた。
 夜遅くだったこともあり、一般人はおろか運命予報士にさえ気取られず、既に一時間ほどが経過している。
 そう。ここにいる二人を除いて、その結界は完璧だった。
 とはいえ、夜が明ければ運命予報士たちとてこの異常に気付くだろう。
 銀誓館が介入する前に襲撃をかけるのならば、このタイミングを逃す手はない。
「生存者はいません。お兄様には端から無用な忠告でしょうが、気兼ねはしなくて結構です」
 だって人に気を遣うとか無理でしょう? とリアの視線。的確である。
「いやいや、紳士として女性に対する気遣いは基本スキルさ。現にほら」
 にこやかにコンビニの袋を差し出す。
「何ですかコレ」
「うむ。味噌おでんだ」
 何故に。
 リアが受け取る。冷めていた。せめてカイロとかにして欲しかった。
 受け取り、そしてそのまま屋上から投げ捨てるリア。
「がんもぉぉぉぉーーーッ!?」
「うっざ……」
「臨場感たっぷりに溜息吐かないで!? 本気で悲しくなるから!」
 屋上から身を乗り出して手を伸ばす。もちろん、既にがんもは闇の中。好きなのかがんも。
 そういえば、と、それまでの流れをぶった切り、リアは思い出したように手を打ち合わせた。
 とても楽しそうな、つぼみが花開くような笑顔を見せる。
 普通に笑えばこれ以上ないほど魅力的な少女なのである。
「この戦いが終わったら、ご結婚なさるそうですね、お兄様」
「え、初耳なんですけど」
「もし生きて帰れたら、小さなお店を開いて、そこで幸せな家庭を築くのが夢なんですよね」
「知らないよ!? 初めて聞いたよそんな夢!?」
「あ、そうそう。その子供の名前はベイル……お兄様と同じ名前にするのだとか。生まれてくる子供のためにも、絶対に死なないで下さいね」
「死亡フラグ乱立ぅッ!? やーめーてー! 死んじゃう! それ以上言われたら本当に死んじゃう!」
「ああ…そうでした。明日はお兄様の恋人の誕生日でした。私も及ばずながら、温かいシチューを作って待っております。うふふ、盛大なパーティーにしましょうね」
「もうダメだぁぁ! 無理! 死ぬ! それは死ぬ! 居もしない恋人の為に俺死んじゃうよぉぉ!?」
 たーすーけーてー! と身悶えるベルをさも愉快げに眺めて、
「ほら――さっさと死んできて下さい」
 リアは一欠けらの容赦もなく、その背中を突き飛ばした。
 ビルの屋上、高さ約50メートルの高みから。


「――こーんばーん、はぁぁぁぁッ! はいどっこいしょぉーぃ!」
 ガラガッシャアアアン、と盛大な音を立てて窓ガラスが割れる。
 けたたましい大音響を伴い、ガラスの破片をまとって、ベルはカーペットの床に着地した。
 ハナっから隠密とかまるっきり考えてない侵入である。いや、襲撃、強襲? まぁなんかそんな感じの力技である。
 ビルの屋上から飛び降りて全くの無傷。何なのかコイツ。
 そしてリビングデットと目が合った。
「……」
「……」
「……。ども、コンバンハ」
 しゅたっと手を上げにこやかに挨拶なんぞしてみる。
 よぅし死ね! と襲い掛かってくるバケモノさん。ノリは悪いらしい。
「フ――」
 ベルの口元に酷薄な笑みが浮かぶ。
 ばね仕掛けを思わせる機敏さで腕が撥ね上がる。
 その手には――いつの間にか、一挺の銃が握られていた。
 流麗かつ無骨な漆黒の銃身。
 豪奢を凝らした金細工。精緻にして微細な彫り物が施されている。
 およそ実践には向かなさそうな、装飾銃としての側面が強い一品であった。
 グリップを握る手がゾンビの眉間に向けられる。
 躊躇うことなくトリガー。
 解き放たれたハンマーが雷管を叩き、秒速300メートルにも達する弾丸が容赦なくリビングデットの眉間を貫か、なかった。
「うん?」
 弾は発射されなかった。
「あれー?」
 どうしたの? と銃口を覗き込みパスパス引き金を引く無防備バカ。決して真似してはいけない。
 どうやら弾切れ、というか、弾を入れ忘れていたようだった。
 準備なんざ全然できちゃいねぇのである。
「――、フム」
 一つもっともらしく頷いて、ベルは踵を返し、凄まじい速さで逃げ出した。
 それはもう、見るほうが惚れ惚れするくらい見事な逃走であった。武士道のように潔い逃げっぷりだった。
 呆気にとられるゾンビちゃんを置いてけぼりにして、ベルの姿はどんどん小さくなっていく。
 最近できた友人がこの場にいれば、「何しにきたのーーー!?」などとツッコンでくれるのかもしれないが、残念ながらここにはいない。
 あと許可とってないので登場させられない。著作権て大事です。
 はっと正気に戻ったリビングデッドが雄叫びを上げつつ追跡開始。
 その奇声に誘われて、続々とゴーストたちが集まってきた。百鬼夜行もかくやである。
「増えてる? 増えてる! ふーえーてーるー!?
 なんか追っ手が凄いことになってるよぅ……!」
 うっひゃあ、とあられもない悲鳴を上げて全力疾走。一週間溜め込んだ便秘がようやく解消した金魚のような有様だった。
 延々と屋敷の中を駆け回り、いまやほとんどのゴーストがこの鬼ごっこに参加していた。
 一人VSその他大勢。ここまで溜め込んだら範囲攻撃で一掃するか、もう大人しく更新ボタンを押すしかない。
 だが残念ながらこの男には常識的な判断能力が皆無なので、いまも往生際悪くゼェゼェ逃走を続けている。
 お友達になろうよ! とやたらフレンドリーな誘惑が背後の魑魅魍魎どもから聞こえてきたような気がした時、ベルの進行方向に大きめの扉が現れた。
 しめたー! 渡りに船と滑り込む。そして施錠をガチャリンコ。
 扉は何故か分厚い金属製で、さらに都合のいいことに頑丈な閂がつけられていた。
 扉の向こうからドタンバタンと大変悔しそうな騒音が聞こえてくる。ふははご都合主義万歳。
 さて、と肩を鳴らして振り返る。すると、
「残念ね。ここで終わりよ能力者さん」
 隠しようもない殺意に滾る、殺人鬼の姿があった。


 広い円形のホールだ。ダンスパーティーにでも使われるのだろうか。
 品の良い調度品の数々。西洋の城を思わせる豪奢な造り。ご丁寧に頭上にはシャンデリアまで設えてある。
 とてもじゃないが個人の住居には相応しくない、そこは大規模な広間だった。
 その中心。艶然たる微笑を浮かべ、一人の女性がそこにいた。
 一見、美しい女性だ。
 大胆に肌を露出した衣服は蟲惑的で、自信に満ちた面貌は女帝のような気品がある。
 だが、その身に纏う剣呑な空気が、既に何人もの返り血を浴びてきたと如実に物語っている。
 リリス。
 数多の男を誑かし、その血肉を糧とする女性型のゴーストである。
「外が騒がしいと思っていたら、不躾なネズミさんが迷い込んでいたのね。うふふ、鬼ごっこはここで終わりよ。貴方もすぐに殺してあげるわ」
 血も凍るような死刑宣告。
 華奢な体格とは裏腹に、その殺意は本物である。
 明らかに先ほどまでのゴーストたちとは一線を画す強大な個体。
 背筋を凍らせる殺気にも、ベルは、動じなかった。
 というか聞いちゃいなかった。
 目の前のリリスをまるっきり無視する形で、きょろきょろ辺りを見回している。初めて東京に来た地方の中学生並みだった。
 カチン。リリスの顔が強張る。
「貴方ねえ……」
「ああ君、不吉はどこだい?」
「……はあ?」
「それともこれは不忠かな。不吉で間違いないとは思うのだが……。うーん、分からないな。ま、会ってみたら分かるだろう。申し訳ないが案内してもらえるかな」
 リリスが頬を引きつらせる。どうやら自分を無視して意味不明の戯言を続けるベルに、いたくプライドを傷つけられたらしい。
「何をワケの分からないことをベラベラと……! 貴方はワタシに殺されるのよ。少しは怯えて見せなさい!」
 それに、ベルの動きがぴたりと止まる。
「あれ? 分かんない? ……参ったな、また無駄骨か。ふざけた話だ、わざわざ出向いてやったというのに顔も見せないとは」
 やれやれと肩をすくめ、何のつもりか、ベルはそのままあっさりと背中を向けた。
「! ちょ、待ちなさい! どこに行く気!?」
「うん? いやなに、どうにもハズレっぽいので帰ろうかと」
「……」
 信じられない。絶句するリリス。
 この男は、騒ぎの元凶に辿り着いておきながら、そのまま見過ごすつもりなのだ。
 銀誓館に所属する者ならば、まず間違いなくしないような事を、この男はやろうとしている。
「貴方――それでも能力者?」
「んー、まあ、一応。それにもう事は済んじゃってるしね。今更俺が出張ったところで、死んだ人は生き返らないし」
 ご愁傷様です、とどこまで本気なのか手を合わせる。
「と、いうわけで! お邪魔しました、騒がせてしまって悪かったね。ここらで俺はお暇するんで、君は後からやってくる真っ当な能力者諸君に退治されちゃってくれたまえ!」
 最後ににこやかに微笑んで、アデューと手を振り去っていく紳士服。
「ふ、」
 それが、
 決定的に、彼女の怒りに火をつけた。
「ふざけるな―――ッ!」
 びりびりと空気を振るわせるほどの叫び声。
「これを見なさい!」
 リリスが右腕を広げたと思うと、そこに今までにない変化が現れていた。
 その腕の中に、年端も行かない子供が現れたのである。
 人質だ。怯える子供を片腕で拘束して、リリスは男を睨みつける。
「逃がさないわよ能力者。逃げればこの子供を殺す。貴方は大人しくワタシに食べられなさい」
 狂気に光る目が、それが紛れもなく本気なのだと示している。
 ベルは――足を止め、振り返った。
 当然である。能力者であるならば、一般人を見殺しにすることなどできない。
 彼らは世界結界を守る者。ひいては常識に生きる全ての人達を守る者なのだから。
「……一つ尋ねるが。本気かい?」
 感情の読めない声でベルが問う。
 そこからは、人質を取ったことに対する怒りも、戦いの高揚も感じ取れない。
「当然よ。抵抗はやめなさい。容赦なく子供を殺すから。ふふ、貴方よく見たらイイ男じゃない……美味しそうだわ。すぐに痛みと快感で何も考えられないようにしてあげる」
 ベルは、長く溜息を吐き、俯いた。
 四肢は完全に脱力しきり、肩は力なく落ちている。下がった顔からは表情が窺えない。
 観念したか。リリスは満足げに頷いて、
「――――る」
 漏らされた呟きが、妙に気になってしまった。
「え?」
 思わず聞き返してしまう。
 ベルは大きく息を吸い込み、

「――――演出が、下手すぎるッッ!!」
 
 そんな言葉を、腹の底から叫んでいた。
「んな……!?」
 驚いたといえば、言葉の内容よりも次に起こった変化だろう。
 やおらベルが楽団の指揮者のように高く両腕を振り上げると、それに促されるように、ホールが炎に包まれていく。
 床、壁、天井、臙脂色の豪奢なカーテン。灼熱は次々と連鎖していき、一刹那のうちにホールを炎熱の地獄と化す。
 轟々と燃え滾る赤い舌。チロチロと舐め取るのは空気中の酸素ばかりではない。空間を占めていたリリスの魔力をあっさりと封殺し、いまやこの場の主賓は貴様ではないと居丈高に大笑している。
 なんだ、これは。
 フレイムキャノンや炎の魔弾による魔炎だろうか。否、ベルがアビリティを使用した様子はなかった。強いて言えば両手を挙げたくらいだが、詠唱兵器も使わずにここまでの能力が行使できるものなのか。
 驚愕に凍りつくリリスを前に、ベルは憮然とした表情で口を開く。
「つまらない。君の演出はつまらない。人質は追い詰められたときに使う手だろう? わざわざ去っていく奴を引き止めるなんてナーンセンス! 
 少しばかりカチンときたよ。君は魅せるという事をまるで分かっちゃいない」
「な――」
「大体ね。これは何だい? この有様は」
 演説をするように両手を広げ、ホール全体を示すベル。
「何を言って――」
「これじゃああんまりにも“キレイ過ぎる”! 館の住人を皆殺し? 馬鹿な。
 ならば気を利かせて死体の十や二十は一目で分かるように積んでおけというのだ!
 一瞬。リリスは我が目を疑った。
 朗々と熱弁する男の姿が、陽炎のせいでブレている。
 その、姿が。

 無数の屍の山に君臨する、醜悪な悪魔のように――

 無論錯覚だ。
 そこにいるのは妄言を吐く頭の悪い変態でしかない。
「宜しい。ならば俺が演出というものを教えてあげよう。なに、少々面倒だが気にしなくていい。たかだか五分ばかり伸びるだけさ」
 にやりと不敵に笑うベル。
「ちょ、調子に乗るな! こっちには人質が――」
 発砲音。
 最後まで言わせずに、ベルは引き金を引いていた。
 リリスに向けて、ではない。
 彼女が人質としていた子供の眉間に、ぽっかりと穴があいていた。
「ば……!?」
「撃てないとでも思ったかい? いやいや、君は根本的に履き違えている。人質というのはね、相手にとって価値がある時、初めて意味を持つものだ。残念ながら俺の目的は人命救助じゃないんでね。正直、他人の命なんてどうでもいい」
 あくまで気楽な彼の態度に、驚いたのはリリスである。
「あ、貴方、それでも能力者なの!?」
「おや、いいのかい? その台詞は負けゼリフだよ? 誰もが聖人君子と思うのが間違いだ。ボランティアなんて今時やってられません。
 もっとも……今に限って言えば、俺は誰も殺しちゃいないが」
 ベルの視線の先、眉間に銃弾を叩き込まれた子供の死体が、徐々に形を変えていく。
 死亡した事で擬態を保てなくなったのだろう。その姿は、紛れもなく子供型のリリスであった。
 ただの狂言。
 人質など、最初から成立してはいなかったのだ。
「気付いてたのね……!」
 憎々しげに顔を歪めるリリスに、いいや? とベルはおどけてみせる。
「知らなかったけど。でもマイシスターが『生存者はいない』って言ってたからね。妹思いの兄としては、妹の言葉は全て真実! この世の真理ッ! たとえ間違ってても全部鵜呑みにして信じてあげるのが『愛』というものさ」
 つまり自分では何の確証もなく、人質を撃った訳で。
「ふ、ふざ……! 貴方……貴方何なの!? 大体この炎は何なのよ!?」
 今も赤々と炎上するホールを見渡して、リリスは至極もっともな疑問を呈する。
「さあ?」
「さあって……」
「まあ、うん、何だろうね。多分いくつもの偶然が重なって、局地的なガス爆発とかが起こったのではないかと」
「はあ!?」
 馬鹿げてる。
 答えの内容もさることながら、それを真顔で言う男の神経がどうかしてる。
 大体、あのタイミングはどう見たって、この男が狙って起こしたものじゃないか。
「ふふふ、どうやら君はこの世界の隠された基本原則を知らないようだね」
「隠された基本原則……?」
「そう!」
 バッ、と手を広げ、胸を張り、ベルはとても楽しそうに妄言を垂れ流す。
「このSSはアンオフィだ。MSもいなければゲーム的な縛りもない、裏設定垂れ流しの我らが楽園、非常にイタイ理想郷! 言うなればTRPGと同列のものと考えていいでしょう!
 TRPGの基本でね。行為判定を伴わない行動、つまりデータ的にはなんら意味のない行動は、基本プレイヤーの意思を尊重する。
 即ち――演出なら、何やったって構わないッ!
「はああぁーーー!?」
 今度こそ、リリスは呆れるしかできなかった。
 意味が分からない。男が何を言っているのか理解できない。そうかコイツは馬鹿なのか、という事は苦もなく確信できるのだが。
 因みに。
 TRPGにおいても、演出なら何をやってもOKという訳ではない。ノリのいいGMならある程度の事は許容してくれるのだが、あんまりやり過ぎると『悪いプレイヤー』としてブラックリスト入りされるので注意が必要だ。何事も空気を読むのが大切です。
 などという注釈は本筋にはあまり関係なく、ただただベルの行動が度を越えた破天荒という事を示すのみである。
「だから俺は炎が出てきた理由なんて知りません! きっとそこには海よりも深く山よりも高い深遠なる理由があるんでしょうが、そんな事はどう・でも・いいッ! 何となく絵的にカッコイイなと思っただけです! ほら、炎上する館の中で最終決戦とか燃えるでしょ?」
「は……」
 馬鹿だ。馬鹿がいる。
 そんな馬鹿げた理由があってたまるものか。シルバーレインは良い子のシリアスな世界観なのだ。たまさか迷い込んだ阿呆の戯言でぶち壊していいものではない。
「は、ははははは!」
 今この場であの変態の暴挙を止められるのは、残念ながら彼女しかいない。
 頑張れリリス。負けるなりリリス。シルバーレインを愛する善良な能力者の皆さんなら、思わずゴーストの方を応援したくなってしまうかもしれないこの状況。
戦闘中に笑い出すという死亡フラグを立てようと、なぁに気にすることはない。既にあの馬鹿は妹によって何個も死亡フラグを立てられている。確率的には奴の方が死に易い!
「ああ、そうだ」
 ふと思いついたようにベルが呟く。
「基本と言えば。
 やっぱりあると落としたくなるよね、シャンデリア」
「――――!?」
 銀の銃口が軌跡を描く。
 銃弾は鎖を引きちぎり、大質量の硝子塊が轢殺せんと迫りくる。
 ―――ガシャアアアァァンン!
 幾千の硝子がひび割れる大音響が、ホール全体を駆逐する。
 辛うじてかわしたリリスだったが、飛び散った硝子の破片、その全てをかわすことなどできはしない。露出の高い衣服もあいまって、その肌にいくつも硝子の洗礼を浴びてしまう。
「く、の……!」
 体勢を立て直す暇もなく、彼女は視界に、銃を構える男を捉えた。
「そういえば、さっき思い出したのだけれどね」
 気軽な調子でベルが嘯く。
 横に寝かせてグリップを握る、黒金に光る詠唱銃。
 華美にして流麗。無骨にして繊細。意匠を凝らした金と銀の装飾は、銃身に何か『得体の知れないモノ』を描写している。
「詠唱銃って弾いらずなんだよね。術式を銃弾に見立てて撃ち出しているとか何とか。つまり、」
 撃ち出すモノは鉛に非ず。
 其が放ちしは――、
「正義と平和を愛する心(クルッタシネンニモトヅクジュツリ)、ってね!
 いやはや、ルビがないと辛いねどうも!」
 巫山戯た言葉を高らかに叫び、十把を握る手に力を込める。
 撃ち出された蒼黒の弾頭は、高度に編まれた術式の塊である。
 擬似的な弾丸は鮮やかな螺旋運動を描き、さながらネジのように、空気を抉り、巻き込み、真空の刃を纏いながら、一直線に敵の顔面に肉薄する。
 立て続けに三連射。鼻歌でも鳴らしそうな気楽さで、必殺の魔弾を発射する。
 だが。
 リリスとて、たかだか通常攻撃程度で屈するほど柔ではない。
「甘く見るなァ、能力者!」
 嘲笑を浮かべるリリス。
 防御など不可能な体勢で、ベルの弾丸を防いだのは、リリスの四肢ではなかった。
 髪だ。
 彼女の髪がうねり、別個の生命を持つが如く、リリスの盾となったのである。
 さもあらん。かの妖魔の名はリリス。淫靡と蛇を象徴する怪異である。
 ゆえに、その髪はただ美しいだけのものではない。
「行け! あの馬鹿を食い殺しなさい……!」
 号令一下、リリスの髪が異常な速度で伸び上がり、何匹もの蛇へと変貌する。
 地を這うように進む蛇の群れ。
「うおっ!?」
 武道の心得などまるでなく、馬鹿の一つ覚えで銃を乱射するしかないベルにとって、これはかわすことの出来ない攻撃だった。
 呆気なく手足に絡みつかれ、体の自由を奪われる。
「やった……!」

「あー。迂闊に触れると危ないよ?」

 などと、どこか気の抜けた忠告は、完全に手遅れだった。
「え?」
 じゅっ、と熱した鉄板に水滴をたらしたような音がして、何か重たいものが床に落ちた。
 蛇……リリスの髪は、敵を拘束する役目を放棄して、びたびたと床にのたうち回る。
「あ、ああぁ……!?」
 肉の焼ける異臭がする。
 腕のように太く束ねられたリリスの髪が、ごっそりと抜け落ちている。
 髪はその頭皮ごと、地面にこそげ落ちていた。
「あぁああ!? ワタ、ワタシの髪があぁ……っ!?」
「……しまった。やりすぎたか」
 幾分反省を含んだ呟きを漏らし、ベルは軽く右手を振った。
「あ……え?」
 苦悶の声がやむ。
 唐突に引いた激痛に戸惑うように、リリスの顔がベルを見上げた。
「終局だ。ここらで手打ちという事でいかがかな? 俺も遊びが過ぎたようだ。これ以上続けても得るものはない」
 完全に戦意を喪失したリリスは、首を横に振ることができない。
「結構。ああ、髪の件は済まなかった。だが君ならば遠からず生え変わることだろう。それじゃあ、俺はこれで。君も逃げるのなら早めにね」
 では、と背を向ける紳士服。
 散々場を引っ掻き回しておいて、立ち去るのは迅速だった。
 勝手かつ速やかに事態を完結させ、そのまま振り向くことなくこの屋敷を後に――

 ――――視線を感じた。

「ギ、ァ――――」
 獣の声。
 リリスが獣の咆哮を上げている。
 その目に意思の光はない。
 喘息のように息が乱れ、その指がガリガリと、自らの首を掻き毟っている。
 ガリガリガリ、ガリガリガリ。
 爪を立てた動きは容赦がなく。
 当然の結果として、彼女の爪は自らの喉を抉り、

 その、抉られた傷口から。
 巨大な瞳が、顔を出した。

 引き裂かれた傷をまぶたに見立て、本来あるはずのない眼球が。
 じぃっ、と、獲物の姿を凝視している。
「――――ハ、」
 ベルは――
 口端を思い切り歪め、凄絶な笑みを形作った。
 それは今まで彼が浮かべたどの表情とも違うもの。
 底冷えのする、残忍な、悪魔じみた微笑である。
 普段の飄々とした彼を知る者ならば、にわかには信じがたい。
 一片の人間らしさも残さない、無慈悲にして惨憺たる悪魔の冷笑。
「《不吉》。ようやく、ようやく相見えたか――」
 それに《眼球》は、にぃ、と器用に笑みを表現した。
 リリスの体が変貌していく。
 さながら巨人の粘土細工。
 肉塊が潰れ、こねくり回され、もはや原型を留めぬ異質な存在に変形していく。
 オロチ。
 あの女性らしい艶やかな面影などどこにもない。
 敵を一呑みにせんと鎌首をもたげる、醜怪なる大蛇の姿。
「……ウワバミか。相も変わらず、趣味が悪い」
 クツクツと、咽ぶように喉を鳴らす。
 湧き上がる激情を抑えるように、ベルは額を手で押さえた。
 指の隙間から覗く二つの眼は、爛々と、獲物の動向を窺っている。
 オロチが巨大な口を開く。
 裂けるように開かれた大口は、ベルを一呑みにするのに十分すぎる。
 威嚇するように並んだ牙から熱い唾液が滴り落ちる。
 仕掛けられたクロスボウさながらの俊敏さで、鎌首がベルに食らいつき、そして―――

   * * *

 ちゅどーん。
 夜の屋敷が炎上する。
 内部で行われていたチンケな茶番に相応しい、陳腐でチープな効果音だった。
「――なんてこと。いまどき爆発オチだなんて」
 憮然とした呟きはリアのものだ。
 彼女は戦場から十分に離れた場所で、事の次第をつまらなげに眺めていた。
「やっほー、リアちゃん、たっだいまー」
 クウキヨメテナイ笑顔で飄々とバカ登場。
 リアはそちらを見もせずに、ずいっとなにやら分厚い書類を差し出した。
「これは?」
「シルバーレインの利用規約です」
「おおう。我が妹ながらなんてメタな」
「とりあえずお兄様はそれを三十回りほど熟読されるとよろしいかと。つーか読め」
 読者の総意を代弁するかのようなセリフだった。
「随分と派手にやらかしたようですが。世界結界への影響とか考えてます?」
「いや全然。……嘘! うっそピョーン! 嘘だからツバ吐きかけないで!?」
 大慌てで首をぶんぶん振る。
「ガス爆発で屋敷が全焼、筋書きとしてはよくあるパターンさ。ほら、十分に常識の範囲内だろう?」
「後始末はどうするんです」
「後からやってくる能力者諸君が一生懸命やってくれる。元々そういう仕事だしね」
「なるほど。つまり遊ぶだけ遊んで後片付けする気は一切なし、おもちゃを散らかしっぱなしのクソガキがお兄様なのですね」
 にこ、と優しげなリアの笑顔に、思わず頷いてしまうベル。だが気をつけろ、セリフと表情が一致してないぞ。
「ところでお兄様、核廃棄物ってご存知ですか?
 いわゆる核燃料の残りカス、いいトコを全部取っ払ったどうしようもないクズの事なのですが、放置すれば放射能撒き散らして周りに被害を与えまくるし、処分するにも莫大な資金がかかる、社会に迷惑をかけるしか能がない救いがたい最低な、死んだ方がいいむしろ死ねすぐ死ね今死ね的なモノなのです。
 いますよね、人間にもそういう人」
「ふむ、それはいけない。人様に迷惑をかけるのは感心しないな」
「ですよねっ。良かった、ご同意いただけて嬉しいです。
 ところで鏡をご覧になった事はありますか?」
「毎朝見ている。身嗜みは紳士の心得さ」
 それが何か? とてんで理解してない様子の放射性核物質。
 いいえ別に何も? ととびきりの笑顔でリアは答える。
 第三者がいれば失神してしまいそうな会話だった。
「ほんっと、使えない……。何ですかアレは。無茶苦茶にも程があります。俺ツエーとか何様ですか。無敵ロールは嫌われますよ」
「い、いやしかしだね。俺も初バストアップ記念で浮かれていたといいますかっ!
 そこら辺情状酌量の余地があってもいいんじゃないかと思ったりなんかして」
 ごにょごにょと尻すぼみに消える戯言に、リアはとてつもなく優しげな作り笑いを浮かべてみせた。
「この中二病」
「ぐぼあッ!? よ、よりにもよって世界一バカな年代だと……!?」
「事実でしょう」
「いや否定はしないが」
 意外にも自覚はあるらしい。
「みんな数少ないアビリティの中からやりくりして頑張ってるんです。一人だけワケの分からない特殊能力を使えるなんて反則でしょう」
「いや、そこはやっぱり男の子のユメだからね? ちょっとくらいカッコイイ設定とか欲しいんだよ! ……大体選択肢が少なすぎるんだ、技の合成くらいできてもいい気がするんだけどなぁ。
 例えばさ、黒影剣とフェニックスブロウ一緒に出して『黒炎剣』とかさ!」
「よそでやれ」
「光の槍+龍撃砲で『かめ○め波』とか!」
「あー、痛。いた、イタタタタ」
 すごく棒読みかつ無表情で痛がってみせる。事実イタイのだろう。ベルが。
「えー、よくない? カッコヨクない? ……むぅ、いいアイデアと思ったのになあ。残念だなあ」
 本気でブツブツ呟くベルに、リアは氷の女王然とした流し目をくれている。
「あのですね。中二病設定とか恥ずかしくないんですか?」
「うん? フフ、恥ずかしがってちゃ物語なんてつむげないよ。中二病大いに結構!
 日曜朝八時のお兄さん達は全国のちびっ子とオバタリアンの為に毎回カッコ良くてアッタマ悪い台詞を叫んでるんだしさ。いちいち恥ずかしがってちゃ立ち行きません。

 ツマンナイ事を小賢しくやるよりも、バカな事を大真面目にやった方がいい。ほら、だってその方が楽しいでしょ?」
 
 確かに、ベルの言にも一理ある。それは人生を『楽しむ』上で必要な心構えだ。
 無論、それはあくまで心構えとしての話であって、設定とかルールとか全部無視してやんぜヒャッハー! という意味ではない。
「というかですね。そもそもお兄様、イグニッションしてませんよね」
「あ」
 テヘ、と額を押さえるベル。
 今この世界観を根本から無視した事実が発覚したわけだが、全く懲りている様子はない。あ、しまった傘忘れた、とかそんなレベルのうっかりとしか思っていない。
 更に言えば、テヘ、は全然全くこれっぽっちも可愛くなかった。
「い、いや! 今からでも遅くはない!」
 十分に手遅れである。
 だのに何を思ったか、バカは両手を腰の位置に添えて叫んだ。
「ライダー、変ッ身ッ!」
「違います」
「俺の回転動力炉はベルトにあるのだ!」
「ねぇよ」
「ではこのメガネをかけて……ジュワッ」
「仮面のバイク乗りでも光の巨人でもありません。ってまたネタが古いですね。人を選ぶようなネタは三流ですよ」
「えっ? ライダーとセブンって人類の共通認識じゃないの?」
「…………」
 ツッコムのに疲れたのか、はあ、と重い溜息を吐くだけに留める。
 どうでもいいが、リアが突っ込まなければベルは際限なく暴走していく。今も、
「むむむ、しかし俺最近のアニメに疎いんだよなー。……プリ○ュアってどうやって変身したっけ」
 などとのたまっている始末である。
 そんな兄を尻目に、リアは夜の街並みに視線を向けた。
 常識を侵食するゴーストが、今宵、また一つ駆逐された。
 これは世界結界、常識を巡る、能力者とゴーストたちの果て無き戦いの、ほんの一側面に過ぎない。
 じき夜が明ける。
 日の光に怪異は拭い去られ、日常が戻ってく「ムーンプリ○ムパゥワァァー! メェェェイク、アァァップッ!」
「…………」
 そうだ。このバカがいる時点で、マジメな締めなど期待する方が間違っていた。
 白けた表情で兄を見る。
 ついていけない。あのテンションに合わせるだけで相当の労力を必要とするのだ。
 つまり、もう私は疲れました。後は勝手にやってください。
 はあ……。と、心底からの溜息を漏らして、リアはその場を後にした。

   * * *

 ――――闇を抉る。

 銀の銃口から迸る、紅蓮を纏う炸裂音。

 銃声はただの一度。
 だが、それだけで十二分。
 それはまさしく、命を刈り取る死神の鎌そのものだった。
 
 着弾、炸裂。破裂音。
 肺腑を貫く。骨を砕く。脳漿をぶちまける。

 一切の容赦なく、些かの呵責もなく。
 その銃弾は、オロチの命を奪っていた。 
 カラン、と薬莢が床にはねる。
 弾など必要としない詠唱銃をもってして、あえて使用された9mmパラベラム。
 それを感情の読めない瞳で見据え、ベルは、踵を返した。
 もはやこの場に用はない。今度こそ、彼はこの場を後にする。

―――その無防備な彼の背中に、
     死んだはずのオロチが今、必殺の牙を剥く―――!

 当然だ。たかが通常弾でゴーストは倒せない。
 まして敵はオロチである。その生命力は並ではない。
 体を裂かれ、肉を潰され、脳髄を破壊されようがそんな事は関係ない。
 いくたび首をもがれようと、その牙のある限り、何度でもよみが

「否、終わりだ」

 背を向けたまま、冷たい声でベルは断じた。
 停止する時。
 大口を開いたまま硬直する大蛇の怪異。
 その、体が。
 ボロボロと、自壊していく。

 ――――肉の焼ける異臭がする。
 
 むせ返るような悪臭は、立ち込める硫化水素及びアンモニアによる鼻曲がる汚臭である。
 濃厚な腐乱臭。
 腐敗。腐敗。腐敗。
 ぐちゅぐちゅと肉が落ちる。腐り落ちる。爛れ落ちる。
 骨格すら残さない。どろどろに液状化した肉塊が泥の如くに床に広がる。
 よく見れば。
 その死体には、夥しいまでの――《 》、が。
「――――フ、フフフ。フハハハハ……!」
 堪えきれずに漏れる哄笑。
 額を押さえ、とてもとても楽しそうに、ベルは館から退出した。

 ……床に落ちた薬莢には、緻密な彫刻が施されている。
 あまりに小さすぎて一見では判別できないが、それは殊更に存在感を放っている。
 豚だ。豚の生首だ。
 《永久に腐敗せし豚の御印》。
 醜悪きわまる刻印が、自らが引き起こした異常事態を愉快げに嗤っている。

 横たわるオロチの死骸には、びっしりと米粒のような何かがへばりついている。
 よく見れば、
 その死体には、
 夥しいまでの《蛆》が、沸いていた―――。
 
 業火が燃ゆる。
 むしろ慈悲深い灼熱が、殺戮の残滓を拭っていった。

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» やってくれたな!
好き放題だなこの野郎!!

だが、それがいい(いい笑顔)

いいぞ、もっとやれ。
チェスター 2008/02/24(Sun)23:57:42 編集
» 世界なんて!
嘘と虚飾にまみれてるんだ!
オフィだろうとアンオフィだろうと真実なんてどこにもありはしないんだ!
真実は嘘!嘘こそが真実なんだ!

……とりあえず学生らしく世界に反抗した感想を送ってみた。
うん、自分でもなに言ってるか分かんないね。
たつみ 2008/02/25(Mon)00:33:28 編集
» フハーハハハ!
まずは読んでくれてありがとう!
無駄に長ったらしいSSだ。さぞかし骨が折れただろうに。

>チェスター
はっはっは。ああ、好き勝手にやらせてもらったぜ。
あの後3日くらいリアちゃん口聞いてくれなかったけどね!

>たつみ嬢
いや。いいや! 俺には分かるよ。
フフ、たつみ嬢からの溢れんばかりの愛! を感じる!
…え? 違う? 勘違い? チネ? 馬鹿な…!?
ベル 2008/02/26(Tue)20:27:40 編集
» なんて逞しい!
なんて正々堂々としたアンオフィ!
胸を張りすぎていて心地いいですわ。

いいぞ! いいぞ! コンボイ!

と、どこからか聞こえる気もします。
あと、わたくしならば自由に使っていただいても結構ですわよ。

……今のフレーズ! 少々、マゾい!?

さておいて。
リアのような妹を持ったベイルが羨ましいですわ。
なんて、S……。
なんて……うっ。
グローリア 2008/02/27(Wed)22:00:48 編集
» フフ
ありがとうグローリア嬢。読んでくれて嬉しいよ。

>わたくしならば自由に使っていただいても結構

うん? ふ…。それは重畳だグローリア嬢。
で、どう使おうか。
フフ。どうやって使ってあげようか!
君の! 肉体を!
どのような目的でッ! 使用ッ! するのグホァ!?(右ゴリラフック

ん、すまない取り乱した。(鼻血ふきふき
とはいえ無断で君のネタを使ってしまってすまないね。
この場を借りて謝るよ。
でも反省はしないけどねゲブゥッ!?(渾身のボディーゴリラブロー
ベル 2008/02/28(Thu)13:52:14 編集
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